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東京地方裁判所 平成2年(ワ)11711号 判決 1991年9月12日

原告

株式会社エステファ

右代表者代表取締役

今泉清二朗

右訴訟代理人弁護士

小川秀史郎

被告

鰐淵ベルタ

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

高木義明

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して、原告に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成二年四月四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六二年四月、被告らから、別紙物件目録第一記載の建物(以下「本件建物」という。)のうち、第二(一)の部分(以下「本件店舗」という。)を借り受けた。

2  本件建物は、もと訴外末永ヨシ(以下「末永」という。)の所有であり、被告らは、本件建物のうち、第二(二)の部分(以下「本件居室」という。)及び本件店舗を末永から賃借し、そのうち本件店舗を原告に転貸した。

3  訴外株式会社オーディン(以下「オーディン」という。)は、昭和六三年四月八日、本件建物を末永から買い受け、所有権を取得した。

4  オーディンは、被告鰐淵ベルタ(以下「被告ベルタ」という。)に対し、本件店舗の無断転貸を理由として、賃貸借契約を解除し、本件店舗の明渡しを求めた(当裁判所平成元年(ワ)第九〇七二号。以下右事件を「本件明渡事件」という。)。

5  原告は、本件店舗においてエステスタジオを営んでいたが、オーディンの社員の実力行使による妨害行為等により、平成元年一二月頃から営業が立ち行かなくなり、閉店状態に追い込まれていた。

6  被告らとオーディンは、平成二年三月三〇日、本件明渡事件で訴訟上の和解をし、同年四月三日、被告らは、本件店舗及び本件居室の立退料として合計一億二六〇〇万円をオーディンから受領し、本件店舗及び本件居室をオーディンに引き渡した。

7  右本件店舗の引渡しにより、原告の転借権は違法に消滅させられ、原告は、損害を被った。したがって、被告らは、原告に対し、原告が被った損害を賠償する義務がある。

8  原告の転借権の価値は、少なく見積もっても、三八八〇万円を下回ることはない。即ち、被告らがオーディンから受領した立退料は、借家権消滅の対価としての性格を有するところ、右立退料を本件店舗と本件居室との床面積比により案分すると、本件店舗に対応する借家権の価値は七七六一万円を下回ることはなく、原告の転借権の価値も、その半分である三八八〇万円を下回ることはない。

9  よって、原告は、右三八八〇万円のうち、三〇〇〇万円の支払を求めるとともに、右金員に対する転借権が消滅させられた平成二年四月三日の翌日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は、否認する。

2  同2の事実中、原告への転貸の点は否認し、その余の事実は認める。

3  同3の事実は不知。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実中、オーディンの社員による妨害行為等があったことは認めるが、その余の事実は否認する。

6  同6の事実は認める。

7  同7及び8の事実は争う。

三  被告らの主張

1  被告らは、被告らの夫又は父である鰐淵賢舟(仁四郎)が昭和六一年九月九日に死去したので、同人がヴァイオリン教室として利用していた本件店舗及び本件居室についての賃借権を含む遺産を共同で相続した。

2  被告鰐淵晴子(以下「被告晴子」という。)らは、本件店舗の有効利用方法を検討していたところ、昭和六二年初め頃、知人であった原告代表者今泉清二朗(以下「今泉」という。)から、本件店舗でエスティティックの受付と美容についてのカウンセリング業を営むこととしたらどうか、被告らの収入は原告が負担する、店員も原告が派遣する、改装費も原告が負担する等の勧誘を受け、同年三月上旬頃、原告と、被告ら間で、概ね、次の内容の業務提携契約が成立した。

(一) 被告らは、本件店舗において、エスティティック店とアンティックファッション店とを経営する。

本件店舗におけるアンティックファッション店では、被告らが着用した古着を中心とした衣類を販売し、その売上は被告らの収入とする。

(二) 本件店舗におけるエスティティック店は、受付とカウンセリングとする。

(三) カウンセリングは、被告らがこれまでの経験を基礎として実行し、エスティティック希望者を本件建物の近くの原告経営エスティティック店へ勧誘する。

(四) 原告は、被告らの営業を手助けするため、適切な従業員を派遣し、同従業員は、近くの原告経営エスティティック店への顧客の道案内業務をも担当する。

(五) 被告らの受付、カウンセリング担当と、原告のエスティティック店への勧誘業務の報酬として、原告は、被告らに対し、一ヶ月一〇〇万円を支払うほか、一ヶ月当たり一五万円の経費を支払う。

(六) 本件店舗におけるエスティティック店の顧客に対する請求金額は、原告が決定し、その収益は全て原告が取得し、原告派遣の従業員の給料を含む経費は全て原告が負担する。

本件店舗に関する改装、看板、広告、什器備品等の費用は、原告が決定し負担する。

(七) 本件業務提携契約の有効期間は、昭和六二年四月一日から昭和六四年三月三一日までとする。

(八) 電話は、本件店舗に架設されている電話を利用する。

3  昭和六二年三月中旬頃から、本件店舗の改装工事、看板設置工事が原告主導の下に行われ、出入口のシャッターも取り替えられ、その鍵を被告らが取得し、そのコピー二個が原告に渡された後、本件店舗におけるエスティティック店は、昭和六二年四月一日開店した。

ところが、今泉は、本件店舗におけるアンティックファッション店併設に難色を示すようになり、看板工事もエスティティック店用の内容のみとなったため、被告らは、アンティックファッション店の併設を当分見合わせざるを得ない結果となってしまった。

4  なお、被告晴子は、本件業務提携契約締結直前及び開店時に、原告従業員中山和広とともに、末永宅を訪れ、同人に対し、被告らは、原告と業務提携して、エスティティック業及びアンティックファッション業を営むこと、改装工事をすること及び看板を出すことを話し、その承諾を得ていた。

5  被告らは、エスティティック店開店後、日々交互に本件店舗に通い、原告派遣従業員の助けを借りながら、顧客のカウンセリングや、原告経営のエスティティック店への顧客勧誘に精を出した。

6  本件店舗における業務に関連する収入は、原告が取得し、被告らは、原告から一一五万円の支払を受け、その中から本件店舗の賃料一五万円を末永に支払っていたが、開店二、三ヶ月後光熱費が極めて高額となっていたため、原告と被告らと協議し、光熱費もその後は原告で負担することとなった。

7  原告の派遣従業員は、通行人を強引に勧誘するキャッチセールスを繰り返したり、被告晴子の紹介で芸能界に入れてやると不当な勧誘をしたり、大音量の音楽を流したりしたため、被告らに対して、近隣者や、被害者や、消費者センター等から強い非難や、苦情が寄せられた。そこで、被告らは、今泉に対し、注意をしたが、要領を得なかったため、契約期間の満了の日を待っていた。

平成元年一月頃になって、原告は、什器備品を本件建物の近くの原告経営のエスティティック店に移動させ、また、同年二月末頃には、今泉は、被告晴子に対し、期間満了で被告らとの契約を解消する、什器備品は搬出する、鍵も返還する旨約した。

そして、平成元年三月三一日には、連絡の取れない顧客から電話がかかってくることもあるので鍵一個を預からせて欲しい旨頼まれたので、合鍵一個の返還を受けたが、当時、オーディンと紛争中であったことについて、今泉から本件店舗で営業継続中であるように装ったほうが良いとの忠告に従い、簡単な机、椅子等の持ち込みを認めることとした。

ところが、原告は、契約期間経過後も本件店舗を本件建物の近くの原告経営のエスティティック店のキャッチセールの中継基地として使用していることが判明したので、被告晴子は、今泉に対し、強く鍵の返還と、備品の搬出を求めたところ、平成元年四月一五日に原告従業員から鍵の返還を受けたので、放置された机、椅子等は所有権を放棄したものと理解した。

8  ちなみに、被告らは、期間満了後の平成元年四月一日以降原告から金銭の授受を受けたことがない。

また、本件店舗の使用が、賃貸借契約でなかったから、本件業務提携契約締結に際して、権利金も、保証金も、敷金も授受がされていないし、賃料の支払も受けていない。

9  以上のように、本店店舗の使用は、業務提携契約によるものであり、賃借権に基づくものではないし、仮に賃貸借契約的要素が含まれているとしても、その契約は、期間満了により失効しているので、原告の請求は理由がない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告主張1の事実は認める。

2  同2の事実中、本件店舗における業務が受付とカウンセリングとするものであったこと、本件契約期間が昭和六二年四月一日から昭和六四年三月三一日までであったことは認めるが、その余の事実は否認する。本件エスティティック店の経営主体は原告であり、本件店舗の使用形態は転借である。

3  同3の事実中、エスティティック店が四月一日開店したことは認めるが、その余の事実は否認する。工事は原告が発注してしたもので、鍵も原告が原始的に取得した。

4  同4の事実は認める。但し、アンティックファッション業の話をしたことは否認する。このときに、末永は、本件店舗の原告への転借に同意したものである。

5  同5の事実は否認する。被告らが日々通ったことなどない。

6  同6の事実中、原告が一一五万円を被告らに支払ったほか、開店二、三ヶ月後から光熱費も負担したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は、そのほか、二四万円も支払っている。

7  同7の事実は否認ないし争う。

8  同8の事実中、原告が平成元年四月一日以降支払をしていないこと、原告が権利金、敷金、保証金を支払っていないことは認めるが、その余の事実は争う。原告が支払を停止したのは、オーディンの営業妨害により、加えて被告らが十分な対策をとらないことにより、原告が本件店舗でエスティティック店経営に必要な使用収益を上げることができなくなったためである。

第三  証拠関係<省略>

理由

一本件店舗及び本件居室に関する被告らと末永との賃貸借契約関係

1  被告らが本件店舗及び本件居室を末永から賃借していたこと、右本件店舗等は、鰐淵賢舟が賃借し、ヴァイオリン教室として使用していたところ、同人が昭和六一年九月九日死亡したため、被告らがその賃借権を相続したことは当事者間に争いがない。

2  証拠(<書証番号略>、被告晴子本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、末永からの本件店舗及び本件居室の賃借に関し、次の事実が認められる。

(一)  本件店舗及び本件居室を含む本件建物は、昭和三四年五月頃建築され、その南西側店舗部分等は昭和四八年六月頃増築された木造二階建の建物であって、その南西側で幅員約5.5メートルの、いわゆる竹下通りに面している。

右竹下通りは、特に若者の町として著明であり、ブディック、ファッション関連店舗、各種飲食店が軒を並べ、祝祭日平日を問わず、歩行が困難なほどに歩行者がある商店街を形成している。

本件店舗の階段は右竹下通りに面しており、本件建物はJR原宿駅から東方約一七〇メートルに位置していた。

(二)  被告らは、鰐淵賢舟の死亡により、同人が昭和四三年頃から開設していたヴァイオリン教室を継続することが困難となったため、本件店舗の使用方法について苦慮し、昭和六一年末頃には、アンティック用に使用することを計画していた。

そのため、同年一二月一日の契約更新の際には、被告ベルタは、賃貸借期間を右同日から昭和六三年一一月三〇日までの二年間、賃料を月額一五万円とし、本店店舗の使用目的をアンティック店の目的で使用し、他の用途には使用しない旨及び賃借権の譲渡、転貸(同居、共同使用等事実上賃借権の譲渡、転貸と同様の効果となる全ての場合を含む。)又は賃貸人の承諾なしに造作、改造、模様替え等をしない旨を約束した。

右契約更新に際しては、被告晴子が連帯保証をした。

(三)  一方、本件居室は、昭和五六年六月末頃から、鰐淵賢舟が一般店舗としては使用禁止の条件で賃借し、昭和六二年七月の契約更新の際には、期間を昭和六二年七月一日から昭和六四年六月三〇日までの二年間、賃料を月額一〇万円として契約した。

以上の事実が認められる。

二原告の被告らとの契約関係

1  証拠(<書証番号略>)によれば、原、被告ら間の契約書の文言は、次のような内容であったことが認められる。

(一)  原告と、被告らは、本件店舗において、被告ベルタが主宰し、被告晴子及び被告盛山朗子(以下「被告朗子」という。)が参加協力するエスティティックサロンについて覚書を締結する。

(二)  被告らは、原告の派遣するエスティティシャンを指導して、美容及びファッションコンサルタント並びにアドバイザーとして、化粧品の販売及びエスティティックサービスの提供をする。

(三)  原告は、右指導等の業務に対する報酬として、被告らに対し、月額一〇〇万円を毎月二五日限り支払う。

(四)  原告は、被告ベルタが負担した経費について、領収書があるもののうち、毎月一五万円を限度に支払う。

(五)  エスティティック業務遂行上発生した事故については、一切原告が負担し、原告は、これに備えて、適切な保険に加入するものとする。

以上の事実が認められる。

2  これに関し、原告は、被告らと末永との賃貸借契約との関係でそのような文言を使用しているが、実質は転借であり、その転借について末永の同意が得られている旨主張する。そこで、以下、その点について判断する。

(一)  証拠(<書証番号略>、原告代表者及び被告晴子各本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によれば、本件店舗の利用形態に関し、次の事実が認められる。

(1) 原告は、美容サロン(エスティティック)の企画及び経営、化粧品の販売等を営業とし、渋谷区神南一丁目一一番五号ダイネス壱番館、港区六本木四丁目一番一六号六本木ハイツ、新宿区西新宿一丁目一二番一二号河西ビル、渋谷区神宮前一丁目二一番一二号ヴィラ原宿において直営店舗を営むほか、人材派遣、技術の提供、化粧品の卸、顧客の紹介等について業務提携している店舗が、本件店舗のほか、港区南青山五丁目四番辰村ビルの青山心理学研究所(荒井章経営)、新宿区西新宿一丁目一二番一二号河西ビルのザ・スーパーエスティ(飛田初子経営)があった。

(2) 被告らは、本件店舗の使用方法について相談した今泉からエスティティック店の経営を示唆された際にも、本件店舗において被告らが着用した古着の販売を中心としたアンティックファッション店の経営も希望していたが、今泉は、本件店舗が二階に位置するため、不相当と判断し、被告らの了解を得てエスティティック店のみとすることとした。

(3) 竹下通り付近の店舗は、タレントが経営する店舗が多かったので、今泉は、被告晴子の知名度を利用して、外部的には、被告晴子の経営する店舗として広告することを考えていた。したがって、外部には、本件エスティティック店の経営者は、被告晴子として公表し、宣伝していた(そのため、原告の社内でも、本件店舗の経営者は、被告晴子と説明されていた。)。

しかし、被告晴子の知名度は若者には低かったこともあって、最終的には、被告晴子の店舗であるとの広告は使用せず、本件店舗の看板は、「インターナショナル・ハーブエスティスタジオ」とするに止めた。

(4) 原告は、本件店舗の内外装費、看板料、什器備品代等に一〇〇〇万円近い費用を支出した。そして、本件店舗への入口の鍵一個を被告晴子に手渡し、二個は原告において所持していた。

本件店舗における顧客からの収入は全て原告が取得し、本件店舗内で働く従業員に対する給与等の支払は原告の計算において行っていた。

(5) 原告は、被告らとの間で、当初、被告らに月額一一五万円の支払を約束していたが、昭和六二年七月頃から、光熱費等が高額になっているので増額して欲しい旨被告晴子から要望されて、それに加え、二四万円を支払うようになった(その支払方法は、一〇〇万円を被告朗子名義の銀行口座に振り込んで支払い、残りの一五ないし三九万円を被告晴子に手渡し、又は同人名義の銀行口座に振り込んで支払っていた。)。

(6) 被告らは、エスティティックについては素人であり、それに関するアドバイスができる能力はなかったが、エスティック店開店直後は、交互に本件店舗に顔を出し、顧客の話に乗ったり、顧客と一緒に写真を撮ったりしていたが、だんだん足が遠退き、昭和六三年当初頃からは、ときどき顔を出す程度となっていた。

したがって、エスティティックに関する業務は、開店当初から専ら原告の従業員が取り扱っており、被告らがそれについて相談を受けたり、指導したり、助言することもなかった。

(7) 本件店舗内には、開店約一年間は、スティーマー、ベッド二台、ワゴン三台その他の美容機器が設置されていたが、階下等から騒音に対する苦情があったため、昭和六三年四月頃からは、美容機器を搬出し、本件店舗においては、カウンセリング専用とし、美容施術の顧客はヴィラ原宿にある店舗に誘導していた。

(8) 本件店舗の従業員は、竹下通りでパンフレットを配布したりして、いわゆるキャッチセールスをしたりしていたが、その苦情は、被告晴子宛にもされたりした。

以上の事実が認められる。

(二)  被告晴子が、原告との契約締結直前頃及びエスティティック店開店時に、原告の社員中山和広を同行して末永宅を訪れ、被告らが原告と業務提携をしてエスティティック店を営むこと、そのために所用の改装工事をし、看板を出すことについて了解を求め、その承諾を得たことは当事者間に争いがない。

(三) 右(一)及び(二)の事実によれば、本件店舗の経営者は、外部的には、被告晴子と理解され、原告の社内でもそのように扱われていたと言えるが、実質的経営者であるのは、原告であったと認めるべきである。

したがって、対第三者との関係では被告晴子が本件店舗の経営者であったとしても、原告と、被告らとの間では、本件店舗の経営者は原告であることについて異論はなかったものと認めるのが相当である。

(四) しかし、だからと言って、原告と、被告らとの間の契約関係が単純に賃貸借契約であったと認めることはできない。本件場所における店舗の賃貸借契約であれば、名目上は別として、実質的に敷金、権利金、保証金に該当する多額の金員の授受が行われるのが通例であることは公知の事実であるところ、そのような金員の授受が行われたと認めることができないからである。

確かに、末永に対して支払われるべき本件店舗及び本件居室の賃料額に比し、原告が被告らに対して支払っていた金額は高額であったと言えるが、竹下通りに面するという利点、被告晴子の知名度を利用すること(対外的に責任を負うこととなるのは被告晴子であった。)の対価であることを考慮すると、一概に高額で、それが権利金や、保証金に代置できるものと認めるには不十分であるからである。

そのような事情と、前記した覚書の内容を総合すると、本件契約は、無名の特殊な契約であったと認めるべきである。

(五) しかも、末永が本件店舗の経営者が原告であることを承知していたとも認めることもできない。前記したように、対外的には、被告晴子が本件店舗の経営者であり、末永へは、被告晴子と原告との業務提携の事実を告知したにすぎないからである。

(六) 以上の事情によれば、原告と被告らとの契約関係が転借であったとする原告の主張は理由がないものと言うべきである。

三本件契約の終了関係

1  請求原因6の事実は当事者間に争いがない。

2  証拠(<書証番号略>、原告代表者及び被告晴子各本人尋問の結果)によれば、本件契約の終了前後の事情に関し、次の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和六三年暮頃から、本件建物を末永から購入したオーディンから本件店舗の明渡しを求められるようになり、しかも、同社の従業員ないし同社の依頼を受けた暴力団風の者から直接営業妨害行為を受けるにいたったため、顧客の殆どが若い女性であり、原告の本件店舗における従業員の殆ども若い女性であったこともあって、平成元年一、二月頃からは本件店舗における営業も悪化し、殆ど営業を継続できる状態ではなかった(このうち、オーディンの社員による営業妨害行為があったことは当事者間に争いがない。)。

(二)  そのため、原告は、その頃から本件店舗から什器備品の一部を搬出し始めていた。

(三)  本件契約の期間満了の約一月前頃、被告晴子は、今後の営業について今泉に質問したところ、同人は、期限が来たら契約を解消し、鍵を返還する旨述べた。その頃、被告晴子は、今泉から、オーディンに対する対策上、原告が営業を継続している格好をしておくことが良いとの忠告を受け、本件店舗内に若干の机、椅子等の残留を認めることとした。

(四)  契約期限の末日である平成元年三月三一日、被告晴子は、今泉に対し、鍵の引渡しを要求したところ、同人は、連絡のつかない顧客から電話があることもあるので鍵一個は預からせて欲しい旨述べて、一個の鍵を被告晴子に引き渡したが、一個は所持を続けた。

(五)  平成元年四月一三日、原告の従業員が本件店舗内で、オーディンの社員三名から脅迫を受け、被告晴子の告訴により刑事被疑事件として捜査が行われた。

同年四月一五日現場実況見分が行われたが、その当時、本件店舗内には、カウンター、テーブル三台、椅子九脚と、若干の化粧品等が存在していた。

(六)  同月一五日、被告晴子は、今泉に対し、期間満了後の使用継続をしていることについて苦情を述べ、鍵の返還を求めたところ、同人は、直ちに物の搬出と、鍵の返還を約し、その翌日頃、出入口の鍵が引き渡されたが、カウンターと椅子数脚は遺されたままであった。

(七)  その直後頃、被告晴子は、本店店舗内に設置されていた鰐淵仁四郎名義の電話の返還を今泉に要求したところ、同人は、同電話が顧客に知れ渡っているので営業用に継続して使用したい旨述べたので、被告晴子もこれを了承していたところ、平成元年四月二一日、同電話は渋谷区神宮前<番地略>へ移設された。

(八)  なお、原告から被告らへの支払は、平成元年三月分までで止まった(この事実は、当事者間に争いがない。)。

以上の事実が認められる。

3  右事実によれば、原告と、被告ら間の契約関係は、平成元年三月末日をもって終了したものと認めるのが相当である。原告が同年四月中旬頃まで本件店舗を連絡場所として使用していたことは右に述べたとおりであるが、被告晴子の苦情により、同月一六日頃には、本件店舗の出入口の鍵を全て被告晴子に引き渡し、使用価値のない若干の物件を遺していたものの、その後本件建物を使用継続したことを認めることができないからである。

4  そうすると、原告と、被告ら間の契約は、被告らとオーディン間の和解が成立した時点では、存続していなかったことが明らかであり、その時点での契約関係の存続を前提とする原告の主張は、その余について判断するまでもなく、理由がない。

四結論

してみると、原告の損害賠償を求める請求は失当であるので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官田中康久)

別紙物件目録<省略>

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